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 2018/02/23/ 下野新聞掲載記事

自治医大・伊藤真人教授に聞く

進歩する難聴治療

生活の質向上へ 早め受診を






 外耳、中耳の問題で聞き取りにくい難聴「伝音難聴」は医学的治療で聴力を改善できる。一方、内耳やそれより奥の神経系に障害がある難聴「感音難聴」、伝音難聴と感音難聴が重複した難聴「混合難聴」は治療が限られるため、補聴器や人工内耳を装着して聞こえを補う。
 伝音難聴を招きやすく、注意したいのが、慢性中耳炎。繰り返すと鼓膜に穴が空いた鼓膜穿孔(せんこう)が常態化し、音を十分捉えられなくなる。この場合、筋膜を土台にして鼓膜を再生させる「鼓膜形成術」で、聴力を回復させることができる。手術は局所麻酔で30分ほどで終わる。
 鼓膜穿孔を長期間放置すると、中耳のツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨からなる耳小骨まで炎症で破壊される。この状態になると破壊された部分を再建し、鼓膜を形成する「鼓室形成術」を行う。1週間ほどの入院が必要だが、耳だれも改善できる。鼓室形成術は近年技術が進歩し、術後成績が上がっているという。
 このほか、硬くなったアブミ骨の一部を人工のものに取り換え、動きをよくさせるアブミ骨手術を行うケースもある。
 慢性中耳炎は悪化すると内耳も障害を受けて混合難聴になるので、軽視しないようにしたい。
 伊藤教授は「手術で治せることを知らずに、何年も鼓膜の穴が空いたまま放置している慢性中耳炎の患者が多い。混合難聴になると治せなくなってしまうので早めに受診してほしい」と呼び掛ける。
 感音難聴は、新生児の千人に1人の割合で先天的に生じる。このほか、子どもの場合は髄膜炎が原因となることが多く、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)によるムンプス難聴も多々見られる。ムンプス難聴はおたふくかぜのワクチン接種(任意接種)で唯一予防できる難聴だ。成人の場合は突発性難聴や薬による影響、遺伝、加齢などが原因となることが多い。
 混合難聴や感音難聴で補聴器の効果が得られず、90デシベル以上の両側重度感音難聴になった人は、人工内耳手術の対象となる。県内の手術認定施設は同大病院と済生会宇都宮病院。装着後に会話が9割聞き取れるようになったというデータもある。最近は風呂やプールなど水中でも装着したまま使える防水性能のある人工内耳や、防水カバーなどが開発されているという。
 伊藤教授は「難聴が改善すれば、QOLも上がる。聞こえないと諦めないでほしい」と話している。