
「耳の日」/難聴で認知症リスク増
済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科
新田清一医師に聞く
補聴器、適切な装着を
耳が遠いのは年のせいだから、このままでも仕方がない−。加齢に伴う難聴を放置してしまう人は少なくない。だが、済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科の新田清一(しんでんせいいち)医師は「認知症発症のリスクを高め、言葉の聞き取り能力の低下も招く」と警鐘を鳴らし、適切な補聴器の装着を勧める。3月3日は耳の日。いま一度、聞こえが大丈夫か確認してみよう。(外山雅子)
難聴は高齢者に多く見られる障害。耳から入る音を電気信号に変え、脳に伝える役割を果たしている蝸牛(かぎゅう)の細胞が加齢で衰えて聴力が低下するためで、早い人では30代で蝸牛の劣化が起こり、70代で3割、80代で半分近くの人が難聴だという。「少しずつ聞こえが悪くなるため、難聴の自覚がないまま、脳に電気が届きづらくなった“難聴の脳”になってしまう」と新田医師。
だが、老化現象だからといって難聴を放置するのは危険だ。2017年、第29回国際アルツハイマー病協会国際会議でランセット国際委員会が「認知症の症例のうち、35%は予防可能な九つの危険因子に起因する。中でも難聴はそのうちの9%を占める最大の危険因子である」と発表。難聴は、喫煙やうつ、高血圧などよりも認知症発症に関わるリスクが大きいとされた。
新田医師によると、難聴で音の刺激や脳に伝えられる情報量が少ない状態にさらされると、脳が萎縮し、神経細胞が弱まる。コミュニケーションがうまくいかなくなり、家族や社会から孤立して活動量が減ることでも脳の萎縮が進み、認知機能が低下していく。
難聴は言葉の聞き取り能力の低下も招く。声は聞こえていても、何を言っているのかが理解できない状態だ。聞き取り能力は一度低下すると、元には戻らない。難聴への早期対応が認知機能や聞き取り能力の低下を遅らせる鍵になる。
そこで出番となるのが“難聴の脳”を変化させて聞こえの機能を引き出す補聴器だが、着ければすぐに昔のように音が聞こえるわけではない。トレーニングが不可欠だ。
使い始めは急に全ての音が大きく聞こえるため「うるさい」と外してしまう人も。「最初の1カ月は皆、『気が狂いそう』『地獄』と訴える。大変だが、脳が変化するまでの3カ月間、起きている間は常に着けて」と新田医師。音量は目標値の7割から始め、3カ月かけて徐々に上げていくのが望ましい。
価格の目安は約10万円。聴覚検査や定期的な調整を行わなかったり、高額商品を売りつけたり、試用期間を設けずに販売したりする販売店があるため、注意が必要だという。
「人生100年。補聴器を着けるか着けないかで、10年後の生活の質はだいぶ違いが出るだろう。耳あかの詰まりなどで聞こえにくくなっていることもあるので、まずは耳鼻咽喉科で難聴の原因を診断してもらってほしい」と話す。日本耳鼻咽喉科学会は補聴器相談医を認定しており、同相談医に相談するとより安心だ。